ハリー・ポッターではない、ハリー・ポッターの世界
最初は新聞が次々と出て、そして、自由の女神像が水平線に立っている。
アメリカ黄金時代、1920年代を舞台にその青年は降りたつ。
そんな始まりのファンタスティック・ビースト、見てきました。
ハリポタは映画は3まで、原作は最終巻をまだ読んでないのですが、これは割と楽しめました。
ていうか、ハリポタって思わない方が絶対楽しい作品ですよ、これは(理由は後述
つーわけで、ファンタビの感想。ネタバレしまくりなのでご注意ね(もう遅い
ニュート・スキャマンダーはハリーとは違った、日陰系の主人公なあたりでハリポタ感でたなって思ったが、その後は実は全然違った。ていうか、ここまでハリポタでそれ以降は全く別物。
そもそも、舞台はアメリカの、街中のど真ん中。それはキングクロス駅のような入り口ではない。文字通り、ノーマジ(マグルのこと)たちの中で魔法使いたちの世界がある。この時点でもとの「ハリーポッター」とは世界が全く違う。「ハリーポッター」はあくまで魔法使い同士の中だけで完結する物語だったのに対し、ファンタビの舞台は、魔法使いとノーマジが共存する物語だ。その舞台では、魔法使いはノーマジと対立し、しかし隠匿し、魔法の露呈に恐怖している。アメリカ黄金時代と言うノーマジが最も力が伸びた時代に、魔法使いたちは怯えて暮らしているのだ。
だからこそ、ファンタビには異例とも言えるノーマジのキャラクターが、メインキャラにいる。その存在はもはや「ハリーポッター」の世界が、ただの空想の世界ではなく、我々の世界の隣り合わせな世界だという事実を否応なく突き付ける。その瞬間、ファンタスティックビーストは「ハリーポッター」の世界を飛び出したのだ。我々の空想でしかなかった魔法使いたちが、行きの電車、帰りのバス、自宅の隣で、はたまたコンビニですれ違った知らぬ人が魔法使いではないのかと、そんな懐疑を与えてくる。
無論、そんな訳はないのだが(そんなわけあったらすごく楽しいかもしれないけど)、ただのファンタジーだった「ハリポタ」ではない、奇妙な隣人感を感じてしまう。
この現実への強烈な介入は、アメリカ黄金時代という時代背景があったからこそ為し得たのだろう。魔法使いたちが自らを縛る法と露呈への恐怖によって、無敵の存在ではなくなっていたからこそ、魔法使いは隣人へとなった。
この魔法使いを超える存在こそ、ある意味でこのファンタスティックビーストでのメイン・テーマかも知れない。
主人公であるニュート・スキャマンダーは世界中の魔法生物を研究、保護するために旅をしている。魔法生物は、その名の通り魔法を使う生物。ただ光るものだけを集めたがるのも居れば、天候を操る大型の生物もいる。強力な魔法生物は、まさに魔法使いでも太刀打ちができない程に強力だ。魔法使いを超える、もう一つの存在。「ハリーポッター」本編でも幾度と登場し、幾つかの生物は魔法使いたちを苦しめた。魔法使いと言う常人を超えた力を持った人々すら苦しめる、超常の存在。
そんな彼らを育てるニュートすら、彼の飼育する魔法生物が逃げ出した時にこういった。
「彼らは怯えている。この世界で最も恐ろしい生き物、人間に囲まれて(セリフはうろ覚え」
どういう理由でこの世界での魔法が隠匿されなくてはならないのか、それを覚えていない。しかし、魔法は秘匿されねばならない。だれから?人間から。
過去より、人が科学の力を身に着ける以前から、魔法は虐げられていた。魔女狩りがその例である。
魔法使いは、万能で無敵ではない。「ハリーポッター」では魔法使い同士の抗争や魔法生物でそれを明かし、「ファンタビ」ではノーマジと言う存在によってそれを明かす。
魔法使いと魔法生物とノーマジ。その三者の対立によって、魔法というものの脆弱性と現実、リアルとの繋がりを解き明かした。これこそがファンタビが「ハリーポッター」の物語であり、しかし、「ハリーポッター」でない物語の理由。この点だけで、ファンタビは傑作と言える。ただの「ハリーポッター」のスピンオフではなく、「ハリーポッター」の世界の、別の物語として完結しているのが素晴らしい。
と、こういう舞台背景がとんでもなく素晴らしい。アメリカ黄金時代の暗部を魔法と言う形で表現している感じで。加えてキャストの演技は素晴らしい。ニュートのどもってる感じ、人と付き合いが余り慣れていない感じがグッド。音楽もハリポタらしく、しかしアメリカらしくもある。CGも素晴らしい。
ただ個人的には一点だけ残念な点が。
ここまで書いているけど、魔法生物についての記述が少ないんですよね。ええ。つまり、この映画、「魔法生物」に関する魔法使いが主人公であるんですが、しかし、魔法生物はどちらかといえばシナリオギミック程度で、物語の中心には微妙にいかないんですよね。「魔法生物」という特殊技能を持つ主人公が、アメリカ魔法界の敵と対峙する。そんな感じ。
後半の戦闘も妙にあっさり終わって、黒幕もあっさり捕まるしで、シナリオの中心を占める部分の処理が思った以上に早く終わってしまったのが残念だった。
「ファンタスティックビースト」と銘打っているのだから、もっと魔法生物が活躍(厄介)する物語でもよかったかもなーって。
どうやら連作するというらしいのだが、個人的には1作目(今作)はあの、名前の長いあれ(覚えてない)のくだりはなしで、ニュートが逃した魔法生物を追ってドタバタするだけでもよかったかもなあーと思ってしまったり。
そういう意味で「Fantastic Beasts & Where to Find Them」という原文タイトルはタイトル負けしているかもしれない。
一方で、日本タイトルの「ファンタスティックビーストと魔法使いの旅」は、まさにこの映画を示すタイトルそのものだ。これはノーマジと魔法使いと、魔法生物の三者の物語なのだから、このタイトルこそがファンタビのタイトルなのだ(と僕は思う)。このタイトルにしたのは、英断だ。たまにはいい仕事するじゃん、日本の配給会社。
とまあ、シナリオ面に関してはちょっともにょっとなったところはあるけど、全体的にコメディーあり、シリアスありで綺麗にまとまった、面白い映画でした。
ハリーポッターだと思って見るとちょっと違う感じだと思うけど、「ハリーポッター」のスピンオフだと思って見ると、これは傑作ですよ。
なんたって、「ハリーポッター」の中でホグワーツ以外の世界はどうなっているだってわかるんですもん。
それだけでもわくわくドキドキですよ。これが続くんなら、是非ともいろんな場所でやってほしい。
次回作が楽しみになる作品でした。
ちなみに、この映画ではノーマジのメインキャラが出てくるんですが、そのなかでヒロインの妹といい雰囲気になるんですね(ていうかこの映画、主人公とノーマジ以外、全員お役所勤めなのでヒロイン枠の子が全然女の子してない。ていうか女性キャラが女の子してないんですよ)。「ノーマジと話すのは初めて!」という妹、クイニーはノーマジの男性、ジェイコブに関わり、ジェイコブも彼女の心が読めるという能力に最初こそ驚くが、その後は彼女を受け入れる。しかし、彼は最後には記憶を消されなければならない。
このシーンが本当に素晴らしい。分かっていながらも、本当に感動してしまった。記憶を消す雨に打たれるジェイコブに、魔法の杖で傘を作り、その唇にキスするクイニー。やがて離れて、カメラがフェードアウトし、彼は元の世界に帰る。
王道的なシーンとカットだが、しかし、美しい演出には心を奪われる。
そして、最後の最後で、二人きりになった店内、ジェイコブに笑い掛けるクイニー。ジェイコブは戸惑うが、右手が首下に触れ、笑みを浮かべる。
さっき、最後の戦闘はあれだって言いましたが、それからの流れは本当に神がかってます。前述のシーンに雨の中壊れた建物を戻すシーン、ニュートの別れのシーン。この映画、最後の一連を見るだけの物語と言っても過言じゃあないです。
粋な演出が多いのも、この映画の素晴らしいところです。
そしてこの妹役がほんっっっとにカワイイ。超カワイイ。最強にカワイイ。
どうカワイイかは、映画を見てください。
アリソン・スドルっていう役者さん……この人の映画、みよ。
とおもったら、ほとんどこの映画が初演かよ。最強かよ。
応援します(告白
というわけで、ハリポタじゃない、ハリポタでした。