もるげん3分前

もるげんれえてとそのサークル「Horizont」のスペース。宣伝の他に呼んだ本や映画の感想、最近のこととかを書いていきます。pixiv→http://www.pixiv.net/member.php?id=270447、ツイッター→https://twitter.com/morghenrate

将棋漫画シンギュラリティ ~バンオウ感想~

かつて、自分は将棋を指していました。
中高は将棋部に属し、週末には将棋会館の2階にある道場に入り浸っていました。
そんなに強い将棋指しではなかったですが、それなりに真面目に打ち込んだものの一つでした。

そんなふうに将棋を指していれば、将棋の漫画も読んだりもしたものです。
聖の青春やハチワンダイバーなどですね。
他にも読んだことはないですが月下の棋士3月のライオンなどもありますね。

大学以降、将棋からだいぶ遠ざかっていたのですが、最近面白い将棋マンガがありました。
それが、この漫画、「バンオウ」です。

shonenjumpplus.com

この漫画、将棋マンガとしても、バトル漫画としても非常に先進的であり、かつ挑戦的な作品です。
ですが、根底にあるのは熱い将棋バトル漫画の王道でもあります。
今日はこの漫画について書いていきます。

あらすじ

この漫画は一人の青年「月山元」が主人公を努める。
ある町の将棋道場に通い詰める月山であるが、以上に強い。
それもそのはず。
彼は吸血鬼(!?)で300年間(!?)ずっと将棋を研究しているのだ!(!?!?)
そんな彼は町道場がつぶれてしまう危機に、アマチュアとして将棋7大タイトルの一つ、「竜王戦」に挑む。

棋譜のない将棋マンガ

この漫画はいろいろと異質なのだけれど、何よりも異質がある。
それは、「明確な棋譜がまったく存在しない」ことである。
棋譜とは将棋の流れを示したレコードであり、どのように将棋での戦いが進んでいったかを示すもの。
3月のライオンでも、棋譜のすべてがあるわけではないですが、明確な盤面はあったりします。

バンオウではこの棋譜が全くない。
何なら、盤面もおおよそでしか把握できないのである。
これはバトル漫画でいえば、殴り合いのシーンが一瞬しか写されないようなものだ。

それでもこの漫画は積極的に読者を引き込む魅力がある。
盤面に向かう主人公や敵の棋士たちの鬼気迫る表情。
そして、戦いに挑み背負う気迫。
彼らの立ち振る舞いだけで、生唾飲む戦いを表現するのである。

まさに、この漫画は概念的バトル漫画、とでも言えばいいだろうか。
殴り合う二者の表情とそのモノローグ。
そして解説者しか存在しないバトル漫画。
どのバトル漫画にも共通する要素だけを抽出し、しかしそれだけでバトル漫画を言い張るかの如く、徹底的に将棋が介在しない将棋の漫画なのだ。

主人公は吸血鬼

この漫画のユニークなところは、主人公が吸血鬼なところである。
いや、なんで吸血鬼なんだよ、というツッコミが炸裂する。
そんな設定なのだが、この漫画はこれを生かし切っているのである。

将棋というスポーツは現代になるまで、いかに研究するかが重要であった。
それこそ、プロ棋士は寝る時間以外は将棋のことを考え続けるとさえ言われている。
研究すればするほど棋士としての力になる。
しかし人間である以上、定命の定めにはあらがえない。
つまり、人間はどんなに頑張っても数十年程度しか将棋に全力を捧げられないのである。

ではもし、人間の枠を超えて将棋を打ち込める存在がいたとしたら。
それが現在の将棋になったころから、ずっと将棋を打ち込み続けていたら。
将棋の歴史。
それを体現するようなキャラであったら。
それが、この漫画の主人公である。

この主人公は異能の主人公である。だが、その異能はただチートの異能というわけではない。
将棋に関してはただひたすらに打ち込んだだけの異能である。
将棋では研究だけではなく棋士本人の才能によるところも大きい。
故に、ただ300年の歴史があってもこの主人公は決して安泰の主人公ではない。
事実、現実の将棋の世界には研究も才能もチートめいた天才がいるのであるから……。
藤井何某は、ほんとなにもんなんだよ。

単にチートでも、それでも勝つか負けるかわからない。
それが将棋という奥深さなのだ。

これは将棋マンガなのか

さて、ここまで書いてきたように「バンオウ」は将棋マンガとしては異色と言って差し支えない。
ではこの漫画は「将棋マンガ」なのだろうか。
棋譜も一切なくルール解説もないこの漫画は、将棋マンガと言えるのだろうか。

言える、言えるのである。
この漫画は将棋マンガである。

棋界は一般世間とは大きく隔絶した世界である。
本番勝負がすべてであり、全力を賭した勝負。
年齢制限のある奨励会とプロアマの壁。
他の何もかもをなげうって挑む棋士たち。
何よりも、将棋に魅了された人々の紡ぎだすドラマ。
これは将棋でなくては描けない。
そんなドラマを、バンオウは描いているのである。

ルールも何も解説されていないはずなのに、気付いたら将棋を指したくなってしまう。
将棋の面白さはルールにあるのではない。
一局一局に込められた真剣勝負こそ、将棋の神髄だ。
この漫画は、その「概念」を描き出そうとしているのではないだろうか。

結論

将棋マンガとしてはかなり異質だが、新時代の将棋マンガともいえる。
将棋でも、かつてはどれだけの資質があるか、が戦績を左右していた。
しかし、現在は資質もであるが、どれだけAIを駆使していいマシーンで研究できるか、で決まってしまう。

これまでのような将棋マンガでは現代を戦い抜けない。
それこそ、この漫画は将棋マンガにおいて「藤井聡太」的シンギュラリティなのである。

ちなみに、ちょうど全話無料で読めるそうですよ!(12/2現在)
休みのお供にいかがだろうか。

最後まで読んでいただきありがとうございます。
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