精神科医もるげんの奮闘記 ~それは紛れもなく”ヤツ”さ~
さて、復帰そうそうのブログ1本目。
こういうのはさっさと更新していくのが長続きの秘訣。
まずは3日くらいやる。次は1週間。次は1か月。
途切れたら、また最初からやればいいと気軽な気持ちでやっていく。
軌道に乗れば、それが日常になってやらないことのほうが気持ち悪くなるっていう寸法さ。
と、そういう意味で今回は過去に見た映画の中から何か感想でも書こうかなと思っていました。
そんな風に考えていた矢先に、ちょっとしたトラブルがありまして。
じゃあそれをブログにしちまえと天啓を授かった次第。
今後は精神科医として駆け出しのもるげんが見た(診た)よしなし事を書き連ねるシリーズ「精神科医もるげんの奮闘記」を開始してみます。
精神科医として頑張る日常の中で面白かったことを書き、読んだ人に「精神科ってこういうところなのネ」と思ってほしいのが目的っす。
まあ、深い意味はないので日常コラム的に楽しんでください。
では、今日はそんな精神科医もるげんの当直の一幕です。
精神科における当直業務とは、大きく分けて2つある。
ひとつは他科とご多分に漏れず、夜間の緊急・急変対応である。
例えば、掛かりつけの方からの電話対応。
例えば、病棟で発熱が出た。
例えば、心臓が止まってしまった。
そんな方々の対応をすることである。まあ、これはイメージしやすい、いわゆる”当直”ですな。
一方、精神科ではこれとは別の業務がある。
それは「夜の回診」である。
……別に、いやらしい意味じゃないですのよ。そういう回診あったら参加したいです。
これは、精神科における保護室隔離や抑制(拘束)している人のカルテを書く業務である。
法律上、精神症状で隔離・拘束している人は1日2回診察しなくてはならない。
日中に1回、そして当直中に1回そのカルテを書かねばならないのだ。
そんなわけで、当直の時はまず夕食が出るまで暇をつぶす。
夕食を食べたら少し暇をつぶして、回診に行く。
各病棟に挨拶しつつ、隔離拘束のカルテを書き、それが終わったら当直室に帰る。
そして寝る。
朝まで爆睡できることが多いが、時たまいろいろな対応で夜遅くまで起きることもある。寝れないことも、ある。
それが当直である(ただし、精神科の)。
ちなみに、もるげんは大学病院の精神科に属しており、大学病院の当直の他に自主的に外の病院の当直をしている。
お金のために寝る間も惜しんで働くもるげんなのである。
今日もいつものように各病棟を回り、拘束者のカルテを書き、何もないことを確認し、平穏であることを願いながら当直室に帰るもるげん(ちなみに、精神科病院は年季が入ってることが多く、夜一人で出歩くのはめちゃくちゃ怖い)。
さーて、風呂でも入ろうかなと当直室の扉を開けると、隣の部屋近くの廊下、その床に木の葉大の黒い何かがいた。
埃か。枯れ葉か。落としてしまった処方箋か。
否ッッッ!!
動いたッ!!
瞬間、もるげんの脳裏では無数の演算と数多のエビデンス(論拠)より一つの答えが導き出された!
そう、ゴキブリである!
これをお読みの読者諸兄らに「病院でゴキブリとか出るの……?」と疑念をお持ちの方もいらっしゃるだろう。
それはもるげんが一番感じた。
当直先の病院はそんなに汚くない。けれど、出た。
奴は現れたのだ。
現れた以上、そんな疑問は意味がないのだ。
例えば、我が家でくつろいでこのブログを読んでいる君の目の前に、いきなりターミネーターが現れたとしよう。ニンジャでもいい。ガウナでもいい。何ならタヌキチでもカカポでもなんでもよい。
「なんでこいつがここにいるの……?」
と疑念を浮かべるだろうが、それでは問題は解決しない。
ターミネーターなら次の瞬間に君の顔を吹き飛ばすし、ニンジャならNRS(ニンジャリアリティーショック)で重篤な精神症状を来す。ガウナなら吸収されるし、タヌキチならいわれもない借金を押し付けられ、カカポは発情して求愛行為をしてくるだろう。
重要なのはその疑問ではない。
「駆除すべきか、せざるべきか。それが問題だ」
To do or not to do.
つまりはそういうことなのだ。
病院とはそういう場所なのだ。一分一秒の判断ですべてが決まる。
そしてもるげんは
「見なかったことにしようそうしよう」
と当直室に戻ったのだ。
正直、今すぐにそいつを処分できる武装がなかったのも大きかったし、外病院だからゴキブリを駆除するほどの借りもないなあ、というのが本音であった。
しかし、そうは問屋が卸さない。
もるげんが当直室でシャワーを浴びに行く準備をして、いざ、出た瞬間だった。
「あ、どうも」
そいつはもるげんが開けた扉からするりと、当直室に侵入して、あろうことか「私はここで寝ますので、気兼ねなく」などと本棚の隙間に潜り込んだ。
これにはもるげんもさすがにゾッとした。
もるげんは昆虫類に耐性があり、たいていのやつらなら難なく過ごせるし、駆除もできる。
ただ、さすがにゴキブリと同じ部屋で過ごせるほど精神図太くない。しかも、お誂え向きな隙間に潜り込まれたせいですぐには駆除できない。
もるげんの伝統的なゴキブリ駆除法は、ビニール袋を手に装着し、直接つかみ、粉砕し、ビニールを裏返して縛るというものだ。
はい、そこの軽く引いている君。しかしこの方法は開けた場所であればかなり理にかなっている。
まず、やつらは早いが、ある程度進行方向を予測できれば捕まえることはできる。そして何より、掴んで粉砕すれば仕留めそこなうことはない。欠点はビニール袋越しとはいえゴキをつかむという生理的嫌悪感である。しかし、そこを乗り越えればほぼ確殺できる。
ゴキブリを処理するときのもるげんは感情はない。ただの殺虫マシーンなのだ。
ただ、いくら何でも細い隙間に入り込まれたら手も足も出せない。
とはいえ一緒に過ごすのもさすがに厳しい。
致し方なく、現代兵器に頼ることとして、夜のコンビにくり出したのであった。
ところで、ここ数年は上記の方法で駆除していたものだから、最近のゴキジェットを実は使ったことがないのだ。
耐性を持っている奴らもいると聞いていたのであまり期待していなかったのが、すげーなこれ。
一瞬でゴキさんの動きが鈍くなったわ。
多分、これだけで殺すまではもっていけないけど、動きを鈍らせることは十分にできる。
あとは素手(with ビニール袋)でサクッと終わらせました。
最近は家でゴキさんが出なかったので、仕事先で対峙する機会が多く、そういう時はゴキジェットがひょいっと出てこない場面がほとんど。
なのでビニール袋とかで潰していたんですけど、今後はゴキジェットを頼っていきそうです。
「やはり、科学の力は偉大だな」
そんな風にかみしめたもるげんは颯爽とシャワーに向かった。
頼むから、寝ている間には出ないでください。お願いします。